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高松高等裁判所 昭和43年(く)4号 決定 1968年3月08日

主文

本件即時抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の理由は、本件各記録に編綴されている被告人作成名義並びに弁護人宇賀神直、同阿河準一、特別弁護人岡田淳、同藤本卓一郎及び同戸祭忠男共同作成名義の忌避申立却下に対する即時抗告申立書各記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

右各申立理由の要旨は、被告人に対する前記被告事件の第八回公判期日において高松地方裁判所裁判長裁判官木原繁季が傍聴人に対しその着用している腕章の脱除を命じた処分、右処分に対し主任弁護人から異議申立をした際、充分に右申立理由につき陳述する機会を与えず、また両陪席裁判官と殆んど合議をしないで直ちに異議申立を却下したこと、特に客観的必要性もないのに多数の法廷警備員を法廷内に配置したことは、前記裁判長が本件につき重大な予断と偏見を持っていることを示すものであり不公平な裁判をする虞があることを理由として前記裁判長に対して本件忌避の申立をしたのであり、この理由自体及び被告人には訴訟遅延により何ら利益を得る事情はなく迅速な裁判を求めていることからみても本件忌避申立は訴訟を遅延させる目的のみでなされたものではないし、刑訴法二四条による忌避申立の却下は、右目的が「明らかな」場合に限って許されるのに、本件においては右の「明らかな」事情は認められないというにある。

よって、被告人に対する高松地方裁判所昭和四〇年(わ)第二五〇号国家公務員法違反被告事件記録を検討すると、被告人に対する本件被告事件の昭和四二年一一月二五日原審第七回公判期日において傍聴人中に「大坪を守る会」と書かれた腕章を着用した者が数名認められたので、前記裁判長が同人らにその腕章を取り除くよう命じたところ、傍聴人の一部の者がこれに反問し、弁護人宇賀神及び同岡田が、右命令に対し、理由を述べて右命令の不当性を主張したので、これに対し前記裁判長が更に右腕章は法廷内における傍聴人のなす示威と解し相当でないと認めるとその理由を告げたうえ、重ねて右腕章の脱除を命じたが、傍聴人がこれに従う様子がなかったため、右命令に応じない者に退廷を命じたが、傍聴人らが右命令を非難する発言をし、これに従おうとせず、審理が不可能な状態となったため、本件被告事件につき何ら実質的審理をしないまま閉廷したこと、その結果本件被告事件について、昭和四〇年一一月一〇日第一回公判期日が開かれて以来二年余を経過した右第七回公判期日を終了した段階においても、本件被告事件の審理は、検察官の起訴状の朗読が終ったのみで、本件被告事件の捜査状況等についての弁護人からの釈明要求、検察官の釈明が繰り返され、被告事件に対する被告人、弁護人らの陳述もなされなかったこと、続いて昭和四三年二月三日の原審第八回公判期日の開廷直後、法廷警備を命ぜられた裁判所職員が法廷内に配置されていることに対し、主任弁護人からその退廷の要求があったので、前記裁判長が警備員を退廷させる意思のないことを明らかにしたところ、さらに被告人弁護人から右退廷要求の主張をしたこと、その後傍聴席に腕章を着用した者がいたため、前記裁判長が腕章の脱除を命じたところ、主任弁護人から右処分に対し刑訴法三〇九条二項にもとづく異議を申立て、その理由は、前回公判の際述べたところと同様である旨述べたところ、前記裁判長は合議の結果右異議申立を却下する旨の決定を告知したこと、その後直ちに、主任弁護人、被告人、特別弁護人岡田、同藤本及び同戸祭からそれぞれ前記裁判長の忌避申立をし、その理由として、右異議申立を却下したこと及び右却下決定に際し、前記裁判長は主任弁護人らに前記異議申立の理由について充分陳述する機会も与えず、また、両陪席裁判官と殆んど合議もしないまま右申立を直ちに却下したこと、多数の裁判所職員を法廷警備のため在廷させていることなどを考慮すると前記裁判長が本件につき予断と偏見を有しているものというべきで不公平な裁判をする虞があると述べたところ、原審は、右忌避申立は訴訟遅延のみを目的とするものであるとの理由で右申立を却下したことが認められる。

以上の経過と前記本案の記録によると、木原裁判長がはじめて本件事件審理に関与したのは、第五回公判からであり、次いで第六回公判に及んだが、右二回の公判を通して、同裁判長の訴訟指揮に対し、弁護人及び被告人側から、何ら異議の申立がなされたことのないことは明らかである。ところが、原審第七回公判期日において前記裁判長が、法廷警察権にもとづき法廷の秩序を維持するための処分として理由を述べて傍聴人に法廷内において腕章の着用を許さない態度を明らかにし、その脱除を命じており、また、右公判期日が前記のように審理不能のまま閉廷した事情があったためにこれに続く第八回公判期日においては、傍聴人による審理妨害を排除する考慮から職員をして法廷警備に当らせたものであること、しかるに、裁判長の前回公判における注意を無視して、再び腕章を着用した傍聴人があったので、その脱除を命じたことに対し、この裁判長の法廷警察権に基く訴訟指揮に対し、弁護人より異議の申立があったものである。これより先、裁判長はその訴訟指揮をするに際し、本件は既に二年余の長期に亘り、被告人のためにも迅速に審理をしたいこと、法廷に警備員を入れた理由につき説明し、なお、傍聴人が静粛な態度をとるならば警備員を退廷さすこともやぶさかでない旨のことを述べて、傍聴人に対し注意を与えているものである。このような状況の下で、裁判長が傍聴人に対し、法廷警察権に基く訴訟指揮を行なったのに対して、これを不当としてなした異議を裁判所が直ちに却下するや、弁護人らは、裁判官の信頼性につき重大な影響を及ぼす虞の考えられる忌避の申立を、いささか慎重さを欠いて、性急になしたもののように推測される。このことは、本件忌避の申立が却下され、その後の訴訟の続行に関する意見として、阿河弁護人及び宇賀神弁護人の冷静で誠意あふれる供述に徴するとますます明らかである。されば、本件事実審理の全経過と、忌避の申立をするに至った前記経緯を考慮すると、本件忌避の申立は、訴訟を遅延させる目的のみでされたことの明らかなものと認めざるを得ない。原審が同一見解の下にこれを却下したのは相当であって、本件抗告はその理由がない。

よって、刑訴法四二六条一項に従い主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 呉屋愛永 裁判官 谷本益繁 大石貢二)

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